ぼくの作文物語ーわかりやすい文章を書く(体験的ここだけの話!)②ー書き出しの大切さー
【書き出しの大切さ】
文章の書き出し、前文がとても大事だと言うことをお話ししたいと思います。
新聞記事では見出しがとても大切ですが、その見出しも書き出しである前文(リード文)の中の言葉を使っていることがほとんどです。
『けんちくのチカラ』第1回の俳優・川上麻衣子さん
2010年に私が書いた記事(建設通信新聞=写真)を引用しながら、話を進めます。
「けんちくのチカラ」というタイトルで、著名人に建築空間を語ってもらう新企画の第1回です。女優・川上麻衣子さんにインタビューしました。
これまでにない企画記事のスタートということで、前文もかなり意気込んで考え抜いたことを思い出します。紙面に女優が登場することも初で、これからこうした著名人と建築空間のかかわりを連載していくという企画を思いついたことに、ワクワクする気持ちで書いた記事です。(初回のこの時には思いもしなかった長いシリーズ企画になり、現在も不定期に続いています。これまで80人を超える著名人にインタビューをしてきたことは私の大きな「財産」になっています)
書き出しは、「建築が人に与える影響はとても大きい」という文章です。
読者に最も受け入れられやすいのは簡潔な文だと思います。ただ、書き言葉は話し言葉と違い、非言語情報がないため、簡潔といっても言葉足らずにならないよう注意をしなければなりません。この時もそれを意識していました。次に続く文章も簡潔にしました。
少し長くなりますが前文を引用してみます。
(引用)
建築が人に与える影響はとても大きい。それは意識していなくても潜在的に脳裏に刻まれる。ある日忽然と高層ビルが解体されたとき、そこに開ける視界に輝く夕日を見て感動したことがある。トルコのイスタンブールでは、ブルーモスクに足を踏み入れた瞬間、まさに「青い空間」に清廉な思いを抱かされた。役者やミュージシャンなどのプロフェッショナルが舞台に上がったとき、建築からどんな力をもらうのだろうか。そんな思いにかられ「けんちくのチカラ」の企画は生まれた。毎月第4木曜日、プロの演劇、音楽関係者らに建築の持つ力を語ってもらう。第1回は女優の川上麻衣子さんに聞いた。
(ここまで)
『日本語の作文技術』の本多勝一さんも書き出しを重視
元朝日新聞記者・本多勝一さんの『日本語の作文技術』でも、第10章の「作文『技術』の次に」で「書き出しをどうするか」という項目を設けて、例文を使いながらその重要性に触れています。
ここでは先ず内容がしっかりとしていることを前提に、ではその内容が理想的に読者に伝わるにはどうすればいいかと問いかけています。
そして全く単純な一歩として、「少なくとも、終わりまで読んでくれるものを書くこと」だと指摘しています。簡潔でわかりやすい文章を書くという技術はそのためにもたいへん重要になります。
落語家のように、いきなり本筋に入ることが大切で、読み手を自分のペースに引きずり込むには序論、序曲などをクドクド書いていてはダメだと指摘しています。
論文であればできるだけ早く問題の核心へ、紀行文であれば現地へ入るのが良いと言います。
いきなり本論という大胆さが必要です。
このように書き出しは読んでもらえるか、放り出されてしまうかを左右する部分ですので、私は実はほとんどいつでも悩みます。
本多氏が1回分を書いている時間より書き出しをどうすべきかを考える時間の方が長かったと書いていることに意を強くしました!
「いきなり本論」のパターン
けんちくのチカラの第1回は、本多氏もこの著書で再三にわたりその重要性を指摘している「いきなり本論」のタイプになると思います。
「建築が人に与える影響は大きい」という1文は、これからスタートする企画記事のテーマの核心です。建築空間やランドスケープから受ける影響は、意識してわかるのがちょっとで、大部分は無意識に脳裏に刻み込まれているのだと思います。視覚だけでなく5感全部で受け止めていると思います。
そして文章はその後に直ぐ、ビル解体後の夕陽、ブルーモスクの2つの光景というインパクトのある具体的な影響の事例を取り上げました。これはすぐに出てきたものではなく、数日、事あるごとに建築空間から自分が影響を受けたことをあれこれ振り返ってみて考えた結果出てきた文章です。
ですから前文、出だしの文章は重要であることがわかっていますので、隙間時間を使って自分なりに努力しているわけです。
これが決まった時には本当にスッキリして、その後に続く本文もスムーズに書くことができます。
本多氏は、書き出しの文章のタイプを分類して、「いきなり本論」を「いきなり現場型」という名称を使い、これとは逆のタイプを「よそごと型」という名称でその違いを説明しています。(続く)